金属加工の加工法を選ぶとき、最初に決めるべきなのは「どの会社に頼むか」ではありません。
先に整理すべきなのは、その部品にとって何が製品機能として必要で、何が現行図面や現行工法に引きずられている条件なのかです。材質、板厚、形状、公差、数量、接合方法、検査条件、量産時の安定性まで見ないまま加工法を選ぶと、試作では作れても量産でコストや品質が合わないことがあります。
切削、板金、プレス、深絞り、溶接、鋳造、ダイカストなどの加工法には、それぞれ得意な形状、数量、精度、コスト構造があります。加工法選定は、単に「図面通りに作れる加工先を探す作業」ではなく、製品機能、工程設計、品質保証、量産条件を見ながら、どの作り方が最も無理なく成立するかを検討する作業です。
本記事では、設計・購買・開発担当者が金属加工の相談前に整理しておきたい判断軸と、各社が公開している加工技術・工程情報をもとに、加工法選定の見方を整理します。
加工法選定で最初に見るべきは「形状」ではなく「変えられない条件」
加工法選定では、図面形状をそのまま見て「この形なら切削」「これは板金」「これはプレス」と決めると、判断を誤ることがあります。
本当に先に見るべきなのは、製品機能として変えられない条件です。強度、気密性、導電性、放熱性、摺動性、耐久性、外観、組付け精度、安全性など、その部品が果たすべき役割を整理しなければ、どの形状を変えてよいのか判断できません。
たとえば、厚肉部が必要に見える部品でも、その厚みが強度上必要なのか、現行工法の都合で残っているだけなのかで、選べる加工法は変わります。溶接構造も同じです。接合そのものが必要なのか、複数部品で作っているから接合が必要になっているだけなのかを分けて考える必要があります。
加工法選定の入口は、加工名だけでの判断ではありません。まず、部品に残すべき機能と、見直してよい形状条件を切り分けることです。
数量と公差が変われば、選ぶ加工法も変わる
同じ形状でも、試作品を数個作る場合と、月産数万個を量産する場合では、適した加工法が変わります。
公差も加工法選定に大きく関わります。現行図面の公差をそのまま別工法へ移すと、過剰品質になったり、逆に量産で維持しにくくなったりします。打抜き、曲げ、絞り、切削、溶接後加工では、それぞれ管理しやすい寸法と難しい寸法が異なります。
加工法を決める前に、次を整理しておくことが重要です。
試作で作れる加工法と、量産で選ぶ加工法は違う
試作で形状が出たことは、量産で安定して作れることを意味しません。
切削試作では問題なく見える形状でも、量産プレスに移すと材料流動、ばね戻り、板厚変化、金型摩耗、材料ロット差が問題になることがあります。逆に、試作段階では切削で作るしかないように見える部品でも、量産設計の段階で形状や部品構成を見直せば、プレス化や深絞り、一体成形を検討できる場合があります。
重要なのは、試作時点で「最終量産でどの工法に寄せるのか」を意識しておくことです。試作のしやすさだけで加工法を選ぶと、量産時に金型構造、工程数、検査方法、品質保証を一から見直すことになります。
加工法選定では、試作段階と量産段階を分けて考える必要があります。試作で確認すること、量産で評価すること、量産に移る前に設計変更できる範囲を明確にしておくと、サプライヤーとの相談が具体化しやすくなります。
材質・板厚・形状は、加工法の限界を決める
金属加工では、材質、板厚、形状の組み合わせが加工法選定の前提になります。
同じ深絞り加工でも、軟鋼、ステンレス、アルミ、銅、ニッケル系材料、高張力鋼板では、成形性、割れやすさ、スプリングバック、金型負荷が変わります。板厚が薄ければ精密な形状を作りやすい一方で、しわや座屈が問題になることがあります。板厚が厚ければ剛性は出しやすくなりますが、絞りや曲げの荷重、金型摩耗、寸法ばらつきが大きくなります。
形状についても、単に「深い」「複雑」というだけでは不十分です。角部R、絞り深さ、底面形状、フランジ有無、穴位置、抜き方向、接合部、検査基準面によって、選ぶべき工法は変わります。
深絞りやプレス加工では、材料がどの方向に流れるか、どこにしわや割れが出やすいか、どの面を基準に寸法を管理するかが重要です。図面上の形状だけでなく、材料と金型の中でどう成形されるかを前提に加工法を選ぶ必要があります。
工程を足すのか、形状を変えて工程を減らすのか
加工法選定では、現在の図面形状を維持するために工程を足すのか、形状や部品構成を見直して工程を減らすのかを判断する場面があります。
切削で面を出し、別部品を溶接し、さらに後加工で公差を整える。こうした工程構成は、少量品や高精度部品では合理的な場合があります。一方で、量産部品では、工程が増えるほど加工時間、検査工数、仕掛品、外注管理、不良発生箇所も増えます。
部品一体化、溶接レス、切削レス、ロウ付けレス、工程削減を検討する場合、単に工程を減らせばよいわけではありません。工程を減らした結果、金型構造が複雑になったり、検査が難しくなったり、設計変更の自由度が下がったりすることもあります。
加工法選定で大切なのは、工程数だけを見ることではありません。残すべき機能と、変えられる形状条件を整理したうえで、どこまでを加工で吸収し、どこからを設計変更で解決するかを判断することです。
サプライヤーに相談する前に整理すべき情報
加工法選定の相談では、図面だけを送っても十分ではありません。サプライヤーが具体的な提案を出すには、部品の機能、数量、現行課題、変更できる条件が必要です。
相談前に整理したい情報は、主に次の四つです。
切削・溶接・プレス化を見直すときに確認したい各社の公開技術情報
加藤製作所|対向液圧プレスで見る深絞り・表面品質・板厚変化
住野工業|自動車量産部品で見る精密深絞り・公差・加工工程
エムアイ精巧|工法転換・精密プレスで見る加工法選定の確認材料
樋口製作所|切削・溶接・パイプ加工からプレス化を検討する際に確認できる公開情報
加工法を相談する前に確認したい形状・数量・量産条件
加工法選定で相談先を見るときは、設備台数や加工名だけで判断しない方がよいです。同じ「深絞り加工」「金属プレス加工」でも、各社が公開している情報の重心は異なります。
対向液圧プレスによる表面品質や板厚変化を前面に出している会社もあれば、自動車量産部品の精密深絞りと公差管理を具体的に示している会社もあります。超深絞りによる部品一体化を打ち出している会社もあれば、Super Deep Draw(超深絞り)や新素材・異種材・工程削減を含む開発テーマを公開している会社もあります。
相談前に整理するときは、まず自社部品の課題を明確にする必要があります。形状が深いのか、外観品質を重視するのか、公差が厳しいのか、部品点数を減らしたいのか、切削や溶接を残すべきか、量産時のばらつきが課題なのかによって、見るべき企業情報は変わります。
加工法選定では、次の観点で公開情報を確認すると整理しやすくなります。
金属プレス加工は、日本金属プレス工業協会が金属プレス加工、産業ビジョン、ガイドライン、産業・技術動向などを扱う分野です。発注側が加工法を選ぶ際にも、加工可否だけでなく、金型、材料、成形条件、工程削減、量産品質、品質管理まで含めて見る必要があります。
公開情報を確認するときは、「何でもできる会社」を探すより、自社の部品が抱えている技術課題に近い公開情報を確認する方が現実的です。加工名だけで判断するのではなく、どの条件を変えられるか、どの品質を維持したいか、どの工程を減らしたいかを整理したうえで確認していくことが重要です。
加工法選定で避けたい判断
加工法選定では、現在の図面を前提にしすぎると、選択肢が狭くなります。次のような判断は避けたいところです。
反対に、量産を見据えて最初から金型やプレス加工を検討した方がよい部品もあります。加工法選定では、現行図面を守ることと、製品機能を守ることを分けて考える必要があります。
まとめ
金属加工の加工法選定では、加工名だけで判断しても十分ではありません。
まず、製品機能として変えられない条件と、現行図面や現行工法に引きずられている条件を切り分ける必要があります。そのうえで、材質、板厚、形状、公差、数量、工程数、品質要求、量産条件を整理し、どの加工法が無理なく成立するかを検討します。
試作では切削や板金が有利な場合もあれば、量産ではプレス加工、深絞り加工、順送加工、トランスファー加工を検討した方がよい場合もあります。部品点数や接合工程を減らすために、切削レス、溶接レス、ロウ付けレス、部品一体化を検討することもあります。
各社の公式情報を見る際には、「深絞り加工に対応」「金属プレス加工に対応」といった加工名だけでなく、どの材質、どの形状、どの工程、どの品質条件に関する情報を公開しているかを確認することが重要です。
加工法選定は、加工先を探す作業ではなく、製品機能と量産条件に合わせて作り方を設計する作業です。相談前には、図面だけでなく、部品の機能、現行課題、数量、品質要求、変更可能な条件を整理しておくことが、具体的な提案を受けるための第一歩になります。
よくある質問
参考情報
本記事では、各社公式サイトで公開されている加工技術、加工事例、設備・工程対応、品質・量産情報をもとに整理しています。あわせて、金属プレス加工に関する業界情報、金属プレス産業ビジョン、普通寸法公差、深絞り加工・板材成形に関する技術情報を参考にしています。